人口の経済学 平等の構想と統治をめぐる思想史 野原 慎司著

少子高齢化を眼の前にして関心を持たざるを得ない人口について、経済的な視点から見てみようと思い読んでみました。

内容は、「人口の経済学」というより、「経済学における人口」といった感じ。経済学がまだ独立した学問分野として成立する以前の啓蒙主義の時代から紐解き、経済学が人口をどう取り扱ってきたか、を現代に至るまで概観しています。私は、人口に対し経済が如何に影響するか、に興味があったので、正直、期待外れではあったのですが、せっかくですし最後まで読ませていただきました。

16世紀最初期、経済学が産声をあげた頃は、富の在処は王侯貴族や富裕な商人などで、貧民を増やしても仕方ない、みたいな議論も有りましたが、アダム・スミスらが登場する頃には、一般庶民の消費こそが経済の主軸であり、彼らが豊かになり、数が増えることによって国富が増大すると理解されるようになっていきます。結果、人口増は良いこと、という方向性で経済との関係は語られるのですが、初期の経済学が社会制度論まで含んでいたため、人口を増やす制度は何か、というような議論も射程に収めていました。

こんな議論に一石を投じたのがマルサスで、食料の増産より人口増のほうが上昇率は高くなってしまうため、社会がいずれ行き詰まることを示したのです。ただ、結局この懸念は、19世紀後半から先進国の出生率や人口増加率が徐々に落ち着いていく中で後退していき、ケインズなど、今に至る経済学の基礎となった面々の関心は、一定の制度下を前提とする短期、中期の経済変動を主眼とするようになっていきました。人口は、制度などと同じく、経済を語る上での「前提」となったわけです。

とはいえ、20世紀も後半となり、発展途上国の急速な人口増と先進国の人口停滞、あるいは減少が顕わになると、経済と人口の相互作用にも関心が向けられるようになります。経済が発展すれば出生率は自然に減少していく…という、今の私達が当たり前のように感じているストーリーです。ただ、社会維持に最低限必要な出生率(2.0)を多くの国が下回るようになって、いわば社会の持続性が失われつつある中で、一体この出生率の降下はいつまで続くのか、反転するのか、それは経済によるものなのか、制度によるものなのか、何が原因なのか、様々にアプローチされるようになっていくわけです…

結局、一番興味のあった最後の部分は、あまり掘り下げられることなく終わってしまい、私としては残念な印象となりましたが、経済学の中で人口が如何に取り扱われてきたかを学問的に知りたい、という際には良くまとまっているように思います。ただし、著名な学者名が多数出てくる中で、引用なのか、筆者のまとめなのか、なかなか分かり辛い表現が多く、また、当時の議論の過程を示すためでしょうが、一人の経済学者の見解が移り変わっていく様も丹念に辿ろうとしているため、この人はこう言ったのね、というような簡単な解釈がなかなか示されてはいません。結果、世界史や思想史をある程度知っている人でなければ、ほぼ読めないであろうというような内容になっています。

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