在日米軍基地 川名晋史 著
引越してから本棚に制限がかかったため、本を大変買いづらくなってしまいました。とはいえ、電子書籍はどうも読む気になれず、本をめっきり読まなくなってしまったのですが、「そうだ、こんな時こそ図書館ですよ!」と思い至り今月から市立図書館に出向くようになっています。書籍代も浮きますし、返却期限のお陰で積み本ばかり増やすことも無いですし、一石二鳥ですね。
ただ、これまで読んだ本は本棚を見れば見つけられたのに、今後は手元に残らなくなってしまいます。そこで、読んだ本のレビューを残すことにして読書歴の代わりとすることにしました。「あの本の内容は何だっけ?」となれば、このブログを検索しなさい、というわけです。これでいいかな?未来の私。
久しぶりに新書でも…ということでこちらを読んでみました。在日米軍と日米安保なんて学校の教科書にも乗っている常識ではありますが、その位置づけは私達が日頃思い描いているものとは全く違うことがわかる本でした。
- 日米安保はNATOと異なり、相互の無条件の防衛を定めていない(つまり、日本が攻撃されてもアメリカは自動参戦してくれない)
- 朝鮮戦争のために結成された「国連軍」は未だ組織として存続しており、在日米軍基地の幾つかは「国連軍の後方支援基地」として認定されている
- 在日米軍は日米間の協定に基づき、在日米軍基地を出撃拠点として使用するには日米間の事前協議が必要とされているが、「国連軍」として活動する場合、その対象地域である朝鮮半島及びそれに付随する事態に対して、日本政府との協議無しに基地を作戦に利用できる(つまり、建前を変えるだけで事前協議をパスする道筋がある)
- 「国連軍」は米軍の指揮下にあるが、一方で制度上、米軍単独では存続できないため、米軍以外の有志国の参加が必須(アメリカは国連軍の看板を維持するために英国、豪州等英連邦諸国、フィリピン、フランス等同盟国軍の日本駐留が必須)
- 「国連軍」を維持するため、日本には米軍以外の国連軍参加国の軍隊が常に駐留している(ことになっている)
本書には、なぜこのような複雑な事情が生まれたのか、戦後から現代に至るまで丹念に歴史を紐解いてくれていますので、そちらに関心があれば是非本書を読んでみてください。
日米同盟が、実はアメリカの自動参戦が必ずしも約束されたものではない、というのは少々意外感のある内容だと思います。アメリカは軍事同盟を結ぶ場合、「相互防衛」を義務付けるものでなければいけない、というルールを持っており(当然といえば当然の決まりですね)、これに照らせば、日本は自国が攻撃された際にアメリカの参戦の約束して貰うためには、逆にアメリカが攻撃された場合に自動参戦することを約束しなければいけないのですが、日本の憲法はそれを許していない、と解釈されています。この双方の事情から、日米安保はNATOのような自動参戦を謳うことが出来ていません。結構曖昧な同盟ということです。
この弱さを補うために、日本はアメリカに対し自国の主権を損なってまで多くの基地を提供しており、この対価としてアメリカは日本に駐留し、日本が攻撃された場合は米軍基地が巻き込まれることにより実質的に自動参戦に近い形を取る…というややこしい状況を作っている、というのが本書で示されている内容だと思います。
つまり、米軍基地の空白地帯となっている地方(例えば近畿地方とかですね)に敵国の攻撃が行われても、「巻き込み事故」が起こらないため、米軍は参戦してくれないし防衛行動も行わない、という可能性も出てきます。こう考えると、首都近辺に米軍基地が多数残っているのも、沖縄に多数残っているのも、自衛隊の航空総隊など多くの施設が米軍基地と併設になっているのも、「巻き込み事故」を想定しての配置…と考えると、基地問題も、基地の場所も急に違った風景が見えてきますね。
さらに、もう一つ本書の指摘で興味深いのは「国連軍」の存在です。朝鮮戦争のために創設された有志国による国連軍ではありますが、国連旗を大手を振って用いてよい、とされていることは印象操作としても大変優れた存在です。その国連軍は、実は米軍+αが常に日本に駐留していないと制度上維持できない仕組みとなっている…つまり、国連軍の基地として指定されている在日米軍基地には米軍以外の軍隊(主に英連邦諸国の軍隊など)が駐留していることになっているわけです。これは、万が一日本が攻撃され、在日米軍基地が攻撃されたとき、国連軍参加国も自動的に攻撃されたことになるわけで、その時点で国連軍にも反撃する権利が生まれることになります。結果、日本を攻撃することは米国以外の複数国の参戦を同時に招くかもしれない…という多国間の「巻き込み事故」が仕組まれていることになる…一体誰が考えたんでしょうね、この仕組み。
憲法上、他国との「双務的な普通の軍事同盟」を結べない日本が、武装中立のための重武装を避け多国間防衛の仕組みを構築するために、在日米軍基地も国連軍も上手く利用している側面もあるわけです。一方で、日本は基地に関する主権を縛られ、利用目的も必ずしも制限できないという逆の「巻き込まれ事故」のリスクも背負っていることになります。
日本とアメリカを始めとした諸国間の微妙な利害関係が成立して、ガラス細工のように構築された日本の安全保障網の一端が垣間見える良書と思いました。