首都防衛 宮地美陽子著
タイトルから軍事系かと思いきや、帯は大規模自然災害が並ぶ。これはどんな内容だろう…と興味惹かれて借りてみることにしました。
著者は研究者ではなく行政側の立場で「首都防衛」に取り組まれてきた方です。なので、基本的に東京を想定しての記述ですが、大阪、名古屋、札幌、福岡など日本の大都市ならどこも状況は似たようなものでしょう。
ただ、想定している災害は国家レベル。南海、東南海大地震、富士山噴火まで連動したら、その時日本は耐えられるのか…?いくらなんでも無理じゃないか、と諦めたくもなりますが、江戸時代にはしっかり前例もあるわけで、南海、東南海地震の連動は第二次世界大戦期にも実際起こっています。三連動を乗り越えた江戸幕府のことを、皆さんもう少し見直してあげても良いんじゃないでしょうか…歴史の教科書に、三連動ってまだ載っていませんよね。政権崩壊せずに国家を維持しただけでも、本当は偉業であるはずなのに、上手く乗り越えてしまうと歴史に残らない矛盾。かくして後世の我々は綺麗サッパリ連動なんてことを忘れてしまっています。
おまけに首都直下地震まで連動したら、もう日本は詰んだ…とも言いたくなりますが、別にこれも「想定内」。でも、想定できても対策できるかと言われれば、悲しいほど我々は無力。その現実をまざまざと示してくれる本です。ただ、著者の宮地さんはきっと前向きな方なのでしょう。絶望的な状況を想定しながらも、「なんとかするんだ」という心意気だけは文間から感じられて、それが読者の救いです。
ハッとさせられたのは、「自衛隊が災害支援に専念していて大丈夫なのか?」という指摘。日本の周囲にお行儀の良い国は無いので、混乱する日本の隙を見て、火事場泥棒のように攻めてくることは別に不思議でも何でもありません。その時、自衛隊は防衛出動するための余力を残しているのか。国境線の守りは維持できるのか。神戸の大震災の際は、知事から支援要請がないから何もできない…と臍を噛んだ自衛隊の姿も今は昔。災害となれば必ず自衛隊の姿がそこにあるのを今の日本人は当たり前のように感じています。しかし、その本務は他国からの侵略阻止。巨大災害に当たりつつ、自らも災害の被害を受けながら、防衛出動するような事態…それを「想定外」とは言えない今の日本の状況に、私も含め国民はもっと自覚するべきなのかもしれません。